田邉尚雄賞について

田邉尚雄(1885‐1984)は、東洋音楽学会の初代会長で、のちに名誉会長となった音楽学者です。田邉尚雄賞は、東洋音楽研究のいっそうの発展を促し、わが国における学術の発展に寄与するために、東洋音楽に関する研究の奨励及び会員の研究業績を表彰することを目的として昭和58(1983)年度から実施されています。この賞の生まれた経緯については、機関紙『東洋音楽研究第49号』(1984)に以下のように記されています。

昭和五十七年故田辺尚雄先生の白壽の祝賀に際して、先生より研究業績の表彰事業のための資金として、東洋音楽学会に五十万円の御寄附があり、次いで五十八年百歳および文化功労者の御祝に当り、五十万円の御寄附を頂いた。本学会はその御厚意をお受けし、定款第五条四の事業として「田辺尚雄賞」を設け、昭和五十八年度から実施することになった。

毎年、学会員5名から構成される田邉尚雄賞選考委員会が作られ、審査を行う前年の1月1日から12月31日までに発行された会員による研究業績を対象として選考が行われます。

最新の受賞者・授賞対象

2022年度、第40回田邉尚雄賞は、下記のように決定いたしました。

受賞者・授賞対象

早稲田 みな子

『アメリカ日系社会の音楽文化─越境者たちの百年史』
(共和国、2022年3月20日発行)ISBN 978-4-907986-71-1

選考経過

対象期間中に刊行された会員の業績9作のうち、授賞の要件を満たす7点を選考対象とした。第一次選考(2023年2月24日)、第二次選考(同3月10日)を経て、同3月12日にZoomで開催した第40回田邉尚雄賞選考委員会において慎重に審議した結果、上記1件が授賞にふさわしいとの結論に達した。

授賞理由

本書は、日系新聞などの一次資料や聞き取り調査、そして様々な活動への参与観察などに基づき、米国南カリフォルニアにおける日系社会の音楽文化をおよそ百年のタイムスパンで議論している移民音楽文化論である。日系人にとっての音楽の意味と機能に関して世代間の変遷も含めて論じつつ、ホスト社会との境界線を音楽的に越境する人々の活動なども丹念に拾い、人と音楽との関係性をダイナミックに描き出している。その一方で、本国における当該文化の実情や変化に関する理解が必ずしも十全でないために生じる記述があったり、タイトルにある「越境者」についての議論・説明がないなど、いくつかの問題点も認められた。しかしながら、長くこのテーマに取り組んできた著者による本書は、我が国における様々な他の移民音楽文化研究にも応用できる普遍性のある研究となっており、こうした研究分野のいっそうの発展に寄与するもので、田邉賞授賞にふさわしい業績であると判断した。

飯野りさ(委員長)、金城厚、髙松晃子、千葉優子、野川美穂子

これまでの受賞者・授賞対象

  • 令和3(2021)年度、第39回田邉尚雄賞
  • 令和2(2020)年度、第38回田邉尚雄賞
  • 令和1(2019)年度、第37回田邉尚雄賞
  • 平成30(2018)年度、第36回田邉尚雄賞
  • 平成29(2017)年度、第35回田邉尚雄賞
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